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双極症(双極性障害)の根本原因は視床室傍核?

  • 斎藤知之
  • 1月30日
  • 読了時間: 4分

双極症の脳の異常

今回は、双極症(双極性障害または躁うつ病)に関する最近の研究結果について解説します。2026年1月、順天堂大学の西岡将基准教授、加藤忠史教授らとカナダ・マギル大学のTurecki教授らの国際共同研究グループは、世界に先駆けて、双極症の原因は脳の視床室傍核にあるということを突き止めたと発表しました。この研究成果は、これまでの精神医学の常識を変える可能性を秘めています。


目次


  1. 双極症の謎


双極症(双極性障害/躁うつ病)は、気分が異常に高揚する躁状態と、激しく落ち込む抑うつ状態を繰り返す脳の病気で、人口の約1%の人がこの病気になると言われています。 これまでも多くの研究が行われてきましたが、双極症では「脳のどこに、どのような異常があるのか」ということは明らかになっていませんでした。私の記憶でも、今までは、脳の構造の異常というよりも、脳の機能の異常ととらえられることが多かったと思います。


双極症の研究では、多くの研究グループが大脳の表面である「大脳皮質」に注目していました。しかし、今回の研究グループが目を向けたのは、脳のさらに深い場所にある「視床室傍核(ししょうしつぼうかく)」という部位でした。視床室傍核とは脳の深いところにある「視床」の真ん中にあり、感情のコントロールに関わっていると考えられています。


  1. 視床室傍核の神経細胞が「半分」に


本研究グループは、最新の解析技術を用いて、双極症(双極性障害/躁うつ病)の患者さんの死後の脳を詳しく調査しました。その結果、双極症の患者さんの脳の中では、視床室傍核の神経細胞が健康な人と比べて約50%も減少していたことが分かりました。今までの通説であった「双極症では脳の機能が低下している」というものではなく、物理的に細胞の数が半分になっていたという事実は、大きな衝撃を与えるものです。


また、ミクログリアという、脳の免疫細胞が関わっている可能性も示されました。本研究では、視床室傍核神経細胞とミクログリアとの相互作用を示唆する遺伝子ネットワークも障害されていることが分かり、神経細胞とミクログリアの間のメカニズムの破綻が双極症のメカニズムに関わっている可能性が考えられます。


さらに、統合失調症など他の精神疾患ではこのような現象は見られず、双極症に特有の変化であることも確認されました。


  1. 原因なのか結果なのか


研究成果を判断するときの問題点として、これが病気の結果か原因か判別が難しいというものがあります。今回の視床室傍核の変化についても同じことが言えます。


双極症(双極性障害/躁うつ病)の発症による二次的な変化として、視床室傍核の変化が発症よりも遅れて出てきているなら、視床室傍核の変化は病気の「結果」です。この場合、視床室傍核の変化を止めても双極症の改善にはつながらないかもしれません。しかし、視床室傍核の変化が先に発生し、これにより双極症が発症しているのであれば、視床室傍核の変化は病気の「原因」ということになります。視床室傍核の変化を止めることができれば、双極症が治るかもしれません。


これは別の研究になりますが、マウスで視床室傍核を操作すると、抑制した場合でも、刺激した場合でも、反復性のうつ様行動を示すそうです。この行動は、双極症の症状と一致しています。このため、今回見出された視床室傍核の変化は、双極症の原因であると考えられるそうです。


  1. この発見がもたらす未来


この研究成果は、双極症(双極性障害/躁うつ病)の診断や治療の開発などに役立つ可能性があります。たとえば、視床室傍核を脳画像検査で解析するなどの診断方法が開発される可能性があります。さらに視床室傍核の異常のメカニズムが明らかになれば、双極症の新薬の開発にも役立てることができます。


本研究グループの西岡氏は、「本成果が、診断や治療の新たな突破口につながることを期待しています。」とコメントしています。また、加藤氏は、「今回の結果により、ついに双極症の病態の中心を解明することができたと考えています。原因部位の解明は、診断法や治療法開発の出発点であり、今回の発見が海外でも再現され、世界的に認められれば、双極症研究が飛躍的に進歩することが期待出来ます。」とコメントしており、この研究の成果が歴史的な発見であることがうかがえます。


【引用元・詳細情報】

順天堂大学プレスリリース(2026年1月15日):https://www.juntendo.ac.jp/news/25887.html


原著論文:Disturbances of paraventricular thalamic nucleus neurons in bipolar disorder revealed by single-nucleus analysis. Nature Communications. 2026


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