うつ病
- 斎藤知之
- 2025年11月18日
- 読了時間: 9分
更新日:2025年11月23日

うつ病とは、気持ちがずっと落ち込んだり、以前できていたことができなくなったりする精神疾患です。症状が何週間も持続するのが特徴です。ここではうつ病の症状や治療を解説します。
目次
症状の持続性
うつ病の特徴は、症状がほぼ毎日、ほぼ1日中、何週間も続くことです。たとえば、一時的に強く落ち込んだとしても、うつ病と診断されることはありません。症状に持続性がない場合、適応障害などの別の精神疾患と診断されます。しかし、うつ病の症状が強く、2週間以上にわたって持続する場合にうつ病と診断されます。うつ病は放っておくと何ヶ月も症状が続く場合があり、治療が重要になります。
うつ病の症状
うつ病は、皆が同じ症状というわけではなく、症状にはかなり個人差があります。
気持ちの面での気分的な症状としては、気分が落ち込む、何も楽しくない、すべてがどうでもいい、気力がわかないなどになります。誰でもこういう時はありますが、先述したとおり、うつ病の場合はこれが何週間も持続します。
また、からだの症状も出てきます。食欲がなくなり、眠れなくなったり、寝ても途中で起きたりします。また、疲れやすい、疲れが取れない、体が重い、倦怠感、頭痛、腹痛なども代表的なうつ病の身体症状です。このため、ずっと臥せっている人も珍しくありません。うつ病を身体の病気と誤解する人もいますが、内科的な検査をしても異常が見つかりません。
さらに、うつ病では思考力が低下します。集中力が落ちて、決断や判断が難しくなります。考える速度や話す速度が遅くなることも多いです。考え方はネガティブになり、自分が無価値だと感じたり、自分が悪いと感じたりします。さらに進むと、もう死んでしまいたいとか、死ぬしかないなどと考えるようになります。思考力の障害が重症化すると、現実的な考え方ができなくなる妄想という症状も出てきます。例えば、自分が貧乏になったと思いこむ貧困妄想という症状や、自分がとても悪いことをした、罪を犯したと思いこむ罪業妄想という症状が出てきたりします。また、うつ病では、稀に幻視、幻聴などの幻覚症状が出現することもあります。このような幻覚や妄想を伴う場合は、精神病性うつ病などと呼んだりしますが、重症のうつ病と考えます。
うつ病と同時にパニック症の症状(急な動悸、呼吸困難など)や、他の不安症の症状が出ることもあります。パニック症状や不安症状が強い場合は、治療に時間がかかることが多く、自殺の懸念も高まることから、通常のうつ病より重症度が高いものと考えます。
なお、先ほどうつ病の症状では食欲が無くなったり、眠れなくなったりする症状があると書きましたが、逆に、食欲が増えて食べすぎてしまい体重が増えたり、たくさん眠ってしまったりというような症状が出る場合があります。これらを非定型症状と呼びます。うつ病の非定型症状には、この他にも、周囲の状況に過敏に反応して気分がころころと変わったり、体が鉛のように重く感じたりするなどの症状があります。こうした非定型症状を伴う場合は、双極性障害によるうつ病の可能性があるため、注意が必要です。
鑑別疾患
うつ病ととてもよく似た病気に、双極性障害(躁うつ病、双極性感情障害)というものがあります。これは生涯にわたり何度もうつ病を繰り返す精神疾患で、うつ病と同じ症状が出るため、とても鑑別するのが難しいものです。双極性障害では、躁状態(躁病)または軽躁状態(軽躁病)という、エネルギーが高まる時期があります。この時に「うつ病が良くなった」と思う方が多いです。躁状態または軽躁状態の時期は、自信がわいてきたり、色々なアイディアが浮かんだり、怒りっぽくなったり、目標が高くなったりします。しかし、躁状態や軽躁状態の時は、それが症状だと自覚することが難しいことがあり、そのために発見が遅れやすいものです。
双極性障害は、うつ病と治療法が異なり、抗うつ薬を投与すると再発が増えるなどの問題があるため、見分けることが大事になります。うつ病を繰り返している方は、主治医と双極性障害の可能性について話し合ってください。
また、未成年や20代の方ですと、統合失調症の前駆症状(発症前の症状)もうつ病と間違えられることがあります。統合失調症とは、幻聴が聞こえたり、人の視線が非常に気になったり、知能が衰えたりする精神疾患です。統合失調症になる前に、うつ病の症状が目立つことがあります。
高齢の方の場合、レビー小体型認知症などの認知症疾患がうつ病と間違えられることがあります。
その他、甲状腺ホルモンの異常、副腎ホルモンの異常などの内分泌疾患や、膠原病などの自己免疫疾患でも、うつ病の症状が出ることがあり、見分ける必要があります。これらを見分けるには血液検査が重要になります。
続いて、うつ病の治療の説明に移ります。うつ病の治療には薬物療法、精神療法、身体療法があります。
薬物療法
うつ病の薬を抗うつ薬と呼びます。抗うつ薬には何種類かありますが、どの抗うつ薬も使い方は共通しています。開始する時は、数週間かけて段階的に量を増やします。また、中止する時は逆で段階的に数週間かけて減らしていきます。これを守らないと、気持ち悪くなったり、めまいがしたりという副作用が強く出てしまいます。
どの抗うつ薬も、数週間してから効果が出るという特徴があります。このため、初めの数週間は効果を実感しにくいのですが、それでも使い続ける必要があります。この即効性のなさが関係するのでしょうが、抗うつ薬に精神的に依存することはまずないです。抗うつ薬の習慣性や依存性は心配しなくても大丈夫です。
SSRIやSNRIという種類の抗うつ薬は副作用が少ないため優先的に使われます。ただ、初期には吐き気、下痢、眠気などの副作用が出ることはあります。こうした副作用は1週間ほどで改善することが多いので、最初だけと思って使用を継続してみてください。どうしても耐えられない副作用の場合は、他の抗うつ薬に変えると副作用が治まることがありますから、主治医に相談しましょう。
ボルチオキセチンは比較的新しい抗うつ薬です。副作用が少なく、使いやすいことが特徴です。SSRI、SNRIが副作用のため使えない方は、ボルチオキセチンが良いと思います。
ミルタザピンという抗うつ薬は眠気が強いものの、睡眠を改善する作用があります。また、SSRIやSNRIなどで出やすい吐き気や下痢などの胃腸関係の副作用がほとんどありません。このため、SSRIやSNRIの副作用が強い場合、ミルタザピンが良い代替手段になります。
他には、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬などもあります。ただし、これらは、眠気、ふらつき、便秘、尿が出にくくなるなどの副作用が出やすく、不整脈のリスクが上がることもあります。そのため、他の抗うつ薬が使えない場合や、他の抗うつ薬で効果が弱い場合などに用いられます。
一種類の抗うつ薬だけで改善しない場合は、ほかの薬を組み合わせることがあり、これを増強療法と言います。増強療法については下記のページで解説します。
また、生薬系では、セントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)というハーブや、加味逍遙散という漢方薬などがうつ病を治療する効果があることが分かっています。ただし、セントジョーンズワートは抗うつ薬と一緒に使うと副作用のリスクが高まるため、一緒に使わないように注意してください。
薬による維持療法
うつ病は一度良くなっても再発しやすい病気です。半年から1年間ほどは再発に気をつけなくてはなりません。この間に抗うつ薬をやめてしまうと、再発のリスクが高いです。そのため、抗うつ薬を使って症状が改善した後も、半年から1年間は同じ量で抗うつ薬を続ける方法が一般的です。抗うつ薬には再発を防ぐ効果もあるのです。
よく、自己判断で抗うつ薬を減らし、うつ病が再発するケースがあります。用量を減らすのは半年から1年安定しており、抗うつ薬の中止が視野に入ってからになりますので、焦って抗うつ薬を減らさないようにしてください。このように、抗うつ薬により再発を防ぐ治療を、維持療法と呼びます。維持療法を終える時は、抗うつ薬を数週間かけて徐々に減らします。なお、過去にうつ病を再発した方、うつ病を再発しやすい方は、維持療法の期間を2年以上と長く設定することがあります。
精神療法
うつ病の精神療法には、心理教育、認知行動療法、対人関係療法など様々な方法論があります。心理教育とは、簡単に言えば病気の解説、説明です。うつ病について丁寧に説明することが、治療の第一歩なのです。認知行動療法は、自分の考え方の偏りに気づくための精神療法です。私たち人間というものは、どうしても偏見や誤解を抱いてしまうものです。偏見、誤解は瞬間的に頭に浮かびます。例えば、笑っている人を見ると、自分がバカにされているのではないかというネガティブな発想が浮かぶことがあります。実際には、笑っている人は全く関係ない話を楽しんでいるだけなのかもしれません。しかし、とっさに自分について話していると勘違いしてしまうわけです。このように、自分の頭の中にとっさに浮かんだ発想、偏った考えを振り返り、気付き、修正していくと方法が認知行動療法です。また、対人関係療法では、治療者と患者が一緒に、現在の人間関係のあり方、他者との接し方を振り返り、考え直せる部分がないか検証していきます。例えば、自分が相手に期待しすぎていないかと反省したり、相手から誤解されるような態度を取っていないか見直したりします。
身体療法(機械的治療)
うつ病の薬は色々とありますが、なかなか薬の効果が出ない人もいます。また、抗うつ薬は効果が出るまで時間がかかり、即効性が無いのが欠点です。どうしても薬が効かない人や、すぐにうつ病を良くしないといけない人、例えば、うつ病のため自殺への思いが強くなりすぎた人などには、身体療法と呼ばれる機械的な治療もあります。
従来から知られる身体療法は、電気けいれん療法です。これは、脳に電気を流し、てんかんという現象を引き起こすことでうつ病を治療します。痛みや苦痛を感じないように全身麻酔で行います。電気けいれん療法の治療効果は高く、即効性があるのが特徴です。ただ、全身麻酔で行うため入院する必要があり、大掛かりな治療と言えます。
最近開発された身体療法は、経頭蓋磁気刺激(TMS)です。繰り返すので反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)とも呼びます。これは、脳に磁気刺激を与えてうつ病を治療するもので、外来通院で行うことができます。ただし、かなり痛みを伴うことがあり、それで断念する方も多いです。
この他にも光を当ててうつ病を治療する光線療法という手法もあり、いくつかの医療施設で使われています。
参考文献:日本うつ病学会治療ガイドライン



















