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心的外傷後ストレス障害(PTSD)

斎藤知之
9月15日
読了時間: 4分
心的外傷後ストレス障害

心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状や治療について詳しく解説します。


PTSDとは


心的外傷後ストレス障害(PTSD: Post-Traumatic Stress Disorder)は、トラウマ(心的外傷)と呼ばれる強い恐怖体験、非常につらい体験の後に起きる精神疾患です。トラウマとは、単につらい思い出というだけではなく、心を強く傷つけるような強烈な体験を指します。たとえば、事故で重傷を負う、死にそうな出来事にあう、暴行される、性的暴力を受ける、などが典型的なトラウマです。


日本では、一生のうちにPTSDになる人は人口の1%程度で、男性より女性に多いという統計があります。珍しくはないけれど多くもない精神疾患と言えます。


PTSDの症状


PTSDに特徴的な症状は、侵入症状といって過去のつらい記憶が急に思い出されてしまう症状です。頭の中に勝手に入ってくるように、思い出したくなくても記憶が呼び覚まされてしまうため「侵入的」と表現します。これはフラッシュバックとも呼びます。過去の記憶は夜中に悪夢として出てくることもあります。


PTSDになると、トラウマに関係するようなことを避けるようになります。これを、そのまま回避と呼びます。たとえば過去の記憶が連想される場所や人を、意識的に避けることもあれば、無意識のうちに避けてしまうこともあります。


PTSDでは、恐怖罪悪感などの感情から情緒不安定になったり、眠れなくなったりすることも多いです。


なかには、「現実から離れる」「意識が遠のく」ような感覚になったり、一時的に記憶がなくなる(覚えていない時間がある)人もいます。これを解離症状と呼びます。一部のPTSDの人に、この解離症状が見られます。


PTSDは症状が1ヶ月以上続く時に診断しますが、まだ1ヶ月未満の時は急性ストレス障害(ASD: Acute Stress Disorder)と呼びます。ただ、症状の持続期間が違うだけで、症状はPTSDと同じです。


PTSDになり、自ら命を絶つ方も、残念ながらいらっしゃいます。特に、一度自殺企図したことがある場合、また同様の行動に出やすいので注意が必要です。


PTSDは数ヶ月で自然に治ることもありますが、症状が続く場合もありますから、治療が大事になります。


PTSDの治療


PTSDの治療には薬物療法と精神療法があります。


薬物療法は、うつ病や不安障害の治療と同様に、SSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor: 選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬を使用します。ベンラファキシン(イフェクサー)などのSNRIというタイプの抗うつ薬も有効です。抗うつ薬は副作用を避けるため数週間かけて増量します。


抗うつ薬は毎日内服しないと効果がありませんし、効果が出るのに数週間の時間がかかります。あせらず続けることが大切です。


また、抗うつ薬に非定型抗精神病薬を併用する方法も有効です。たとえば、よくリスペリドン(リスパダール)が使われます。非定型抗精神病薬は幻覚や妄想を改善する作用もあり、主に統合失調症の治療に使われますが、PTSDの治療としても有効です。


将来の展望としては、メマンチンという認知症治療薬がPTSDの治療にも有効だという研究報告が集まっており、国内でも臨床試験が行われています。良い研究結果が出たら、国からの承認が得られるかもしれません。


その他、PTSDでは眠れなくなることも多いため、睡眠薬を使うこともあります。ただし、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬などは長期に漫然と使い続けると依存性、習慣性が出てくるため、短期間の使用に留めるよう配慮が必要です。


PTSDに特有の精神療法では、眼球運動脱感作療法(EMDR: eye movement desensitisation and reprocessing)、持続エクスポージャー療法(PE:prolonged exposure therapy)などがあります。これらは、過去の記憶をあえて思い出し、その後に恐怖感を打ち消すような治療です(当院では行っていません)。PTSDの方では、トラウマだけでなく、「トラウマを思い出すと怖くなる」という記憶も残っています。これを精神療法により、「トラウマを思い出しても怖くならない」という記憶に上書きしていきます。このような記憶の上書きは消去学習とも呼ばれ、PTSDに有効な治療です。しかし、これらの治療では過去の辛い体験を思い出すため、恐怖感が非常に強まったり情緒不安定になったりする危険性があります。この場合は、無理に行う必要はありません。


PTSDの社会保障


PTSDになった場合も他の精神疾患と同様に、様々な社会保障制度が利用できます。


自立支援医療、精神障害者保健福祉手帳(初診日から6か月以上経過している方)は利用可能ですし、うつ病などを併発して自立した生活が難しくなった場合は障害年金も申請できます。こうした社会保障制度の利用には、医療機関で診察を受けて、専用の診断書を発行してもらう必要があります。


PTSDは精神科の医療機関で対応してもらうことが大事です。治療に抵抗がある方もいると思いますが、ちゃんと良くなるものですから、精神科への受診をおすすめします。

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