top of page

指定医レポートについて

斎藤知之
1月1日
読了時間: 26分

更新日:5 日前


こちらは若手精神科医向けの指定医レポートの解説です。指定医を目指す方へのメモ書きになります。一般の方には不要なものですので、ご理解ください。


近年、国連勧告や日本弁護士連合会からの提言、裁判例などを背景に、人権意識が変わり、精神保健福祉法の改正が繰り返されています。


こうした時代背景を受けて、指定医レポートの基準も変わってきています。


以下、厚労省の「ケースレポート及び口頭試問の評価基準」について引用し(下線部)、各項目ごとにコメント、例文などを記載しました。指定医レポートを作成する際に参考にしてください。



目次


1.基礎的事項


① 自ら担当として診断又は治療に十分関わりを持った症例(※)であるか。

※ 少なくとも1週間に4日以上、当該患者について診療に従事したものでなければならない。


コメント:過去に担当していない症例をレポートに提出して指定医取消となった大事件がありましたので、虚偽の記載は絶対に控えてください。

② 精神保健福祉法の理解が十分であり、法の運用上、不適切な点や違法性はないか。


コメント:人間の自由を制限するには相当な理由が必要であることを特に意識してください。

③ 臨床精神医学の基礎知識が認められるか。


コメント:精神医学の基礎知識は指定医レポートにおいてほとんど求められませんので、最低限の記載で十分です。

④ 論旨が不明瞭等、ケースレポートとして不適切な点はないか。

⑤ 差別用語など、不適切な表現・用語の使用がないか。


コメント:指定レポートは疑義の余地がない内容が必要です。誰が読んでも法的妥当性が分かる書き方にしてください。差別用語をレポートに記載する人はいないと思うので、ここは無視してください。


2.症例内容

<共通事項>


① 国際疾病分類(ICD)に基づく診断名(入院時診断名/最終診断名)が記載され、患者の症状と照らしてその診断名に妥当性が認められるか。

② 診断根拠が記載され、その内容に妥当性が認められるか。

③入院時に疑い病名としていた場合、その理由と最終診断を下した日付が記載され、その内容に妥当性が認められるか。


コメント:指定医レポートでは診断学上のチェックは少ないので、診断基準となるような中核的な症状が現病歴に記載されていれば十分です。なお、疑い病名で入院させて後日精神疾患ではなかったと判明したら、違法と判断される可能性があります。そもそも稀有だと思いますが、疑い病名で入院させた症例を指定医レポートに用いないようにしてください。

④入院後の治療経過や治療内容について努めたインフォームド・コンセントの内容が適切に記載されているか。また、その過程における主治医等担当医としての関わりや治療努力(※)が記載されているか。

※ 以下の点に特に留意

・ 修正型電気けいれん療法、多量・多剤大量の薬物療法、クロザピンなど慎重を要する治療手段が用いられた場合、その理由と必要事項に関する記載があるか。

・やむを得ず適応症以外での薬物使用を行う際には、使用の理由と本人や家族にその効果や副作用を含めた説明を十分に行い、同意を得ているか。

⑤ 患者の症状、診断内容に照らし、治療内容に妥当性が認められるか。


コメント:指定医レポートにはガイドラインに沿った治療をした症例を用いてください。ETCやクロザピンは適応があれば問題ありませんが、多量・多剤大量の薬物療法にエビデンスはなく、医の倫理的に控えるべきです。また適応外処方は健康保険法に反する可能性があり、指定医レポートに適しません。倫理的・法的な問題を抱える症例をレポートに用いないことを勧めます。


<入院形態など症例の属性に応じた事項>


措置入院


①患者の症状及び措置入院の対象となる者の要件を踏まえ、措置入院を行う必要性が記載され、その内容に妥当性が認められるか。

②患者が精神保健福祉法第5条第1項に規定する精神障害者であるか(国際疾病分類(ICD)に該当する精神障害を有しているか)。

③ 患者が、

・医療及び保護のために入院させなければ

・その精神障害のために

・自傷(※1)又は他害(※2)のおそれがある と認められるか。

※1 自殺企図等、自己の生命、身体を害する行為。浪費や自己の所有物の損壊等のように単に自己の財産に損害を及ぼすにとどまるような行為は含まれない。

※2 殺人、傷害、暴行、性的問題行動、侮辱、器物破損、強盗、 恐喝、窃盗、詐欺、放火、弄火等他の者の生命、身体、貞操、 名誉、財産等又は社会的法益等に害を及ぼす行為(原則として刑罰法令に触れる程度の行為をいう。)


コメント:措置要件では、上述のように他害の定義は具体的なのに、自傷の定義が曖昧です。しかし、あくまで重篤な自傷行為が切迫していることが措置入院の理由になると捉えてください。措置入院は、憲法で保障される人身の自由(不当に行動を制限されない権利)を制限するもので、法的には逮捕や収監などと同等に重く捉えられます。単に法に背いただけで逮捕されないように、国家が人の自由を奪うには、重大な理由が必要です。したがって、全ての自傷行為で措置入院が適用されるわけではなく、たとえば浅いリストカット程度であれば切迫した状況と考えられないため措置入院は適用されません。あくまで生命の危機や障害が残る可能性があるほどの重篤な自傷行為の危険性が著しく切迫した場合が措置要件だと理解してください。また、精神保健福祉法では政令指定都市の市長が知事と同等の権限を持つことについて、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律における大都市特例の施行について」をご参照ください。


措置症例の例文:(自傷他害の様子と年月日を記載)、通報により駆けつけた警察官に保護されたところ、精神障害により(自傷または他害)のおそれがあると考えられたため、警察官が最寄りの保健所長を経て(都道府県知事または政令指定都市市長)へ通報し、同日患者は当院に搬送された。2名の精神保健指定医(以下「指定医」)が診察した結果、診断は○○であり、本人は○○状態で、その精神障害のために(自傷または他害)のおそれが切迫しており措置入院が必要と両指定医の判断が一致した。(保健所職員、市職員または都道府県職員)により措置入院の告知がなされ、その旨を診療録に記載した。同日、(都道府県知事または政令指定都市市長)の決定により措置入院となり、当院に入院した。(令和6年以降に入院した場合)また、速やかに精神保健福祉士が退院後生活環境相談員として選任され、早期の地域移行に向けた支援体制の構築に取り組んだ。

※検察官通報の書き出しについては次を参照:(年月日)、〇〇の容疑で逮捕・送検されたが、精神鑑定の結果、(診断名と精神状態を記載)の影響が強いと判断され、不起訴処分となった。これに伴い、検察官より都道府県知事へ通報がなされた。

④ 退院まで担当した症例である場合、患者の症状及び措置入院が解除となる者の要件を踏まえ、措置入院の継続が不要と判断された理由が記載され、その内容に妥当性が認められるか。


コメント:措置解除については以下例文を参照してください。


措置解除の例文:(年月日)、指定医が診察し、○○状態は改善しており、自傷他害のおそれがなくなったと判断された。同日、病院管理者より、最寄りの保健所長を経て、(都道府県知事または政令指定都市市長)へ措置入院者の症状消退届が提出され、(年月日)付で(都道府県知事または政令指定都市市長)による措置入院の退院が決定された。(以下、医保に切り替えた場合)本人に対し措置入院が退院となったことを告知した。引き続き医療及び保護のため入院治療が必要と判断したが、依然として病識は欠如しており、本人から入院の同意が得られなかったため、同日、(家族等)の同意を得て医療保護入院とした。

⑤ 2024年(令和6年)3月31日以前に入院が行われ同年4月1日以 後も引き続き入院している者又は同日以後に入院が行われた者の場合、

・退院後生活環境相談員が選任されているか。

・病院において、措置入院者又はその家族等からの求めがあっ た場合その他必要があると認められる場合には、これらの者に対して、地域援助事業者の紹介が行われているか。


コメント:法改正により重視される部分です。以下例文を参照してください。


退院後生活環境相談員の例文:速やかに精神保健福祉士を退院後生活環境相談員として選任し、早期の地域移行に向けた支援体制を整えた。

※地域援助事業者の例文:地域援助事業者の紹介を提案し患者が希望したため、〇〇などの地域援助事業者を紹介した。(地域援助事業者を紹介しなかった場合)地域援助事業者の紹介を強く提案したが、患者が拒否したため、地域援助事業者の利用には至らなかった。


医療保護入院


⑥患者の症状及び医療保護入院の対象となる者の要件を踏まえて医療保護入院を行う必要性が記載され、その内容に妥当性が認められるか。

⑦患者が、精神保健福祉法第5条第1項に規定する精神障害者であるか(国際疾病分類(ICD)に該当する精神障害を有しているか)。

⑧患者が、医療及び保護のために入院の必要があるか。

⑨患者が、その精神障害のために任意入院が行われる状態にないか(本人に病識がない等、入院の必要性についてその精神障害のために本人が適切な判断をすることができない状態にあるか)。


コメント:措置入院と同じく、本人の意思に反する入院は、憲法で保障される人身の自由(不当に行動を制限されない権利)を制限するものですから、極めて重篤な症状でなければ入院の理由として認められません。また、入院は最後の手段であり、入院が必要ということは、他に手段がないということです。たとえば、通院治療など入院以外の代替手段が可能な場合も非自発的入院は認められません。「部屋の壁に自らの頭を打ちつけるなど自傷が続き自宅で保護することが難しかった」「幻覚妄想状態が続くも本人は通院治療を拒否していた」など、審査側が医療保護入院やむなしと思えるような症例を選択し、現病歴にも入院が必要な症状を明確かつ簡潔に記載してください。

⑩本人に対して入院医療の必要性等について十分な説明を行い、 その同意を得て、任意入院となるよう努めているか。

⑪退院まで担当した症例である場合、患者の症状及び医療保護入院の対象となる者の要件を踏まえ、医療保護入院の継続が不要と判断された理由が記載され、かつ、その内容に妥当性が認められるか。

⑫2014年(平成26年)4月1日以後に入院が行われた者の場合、入院措置が行われた者に対して、退院後生活環境相談員が選任されているか。

⑬2023年(令和5年)4月1日以後に入院が行われた者の場合、 入院措置を採る旨の告知は、患者本人及び同意を行った家族等に対して行われており、かつ、告知内容に当該入院措置を採る旨及びその理由が含まれているか。

⑭2024年(令和6年)4月1日以後に入院が行われた者の場合、入院時に3ヶ月を超えない範囲で入院期間を定めているか。


コメント:医療保護入院の告知については以下例文を参照してください。なお、法改正で定められた入院期間は最初は3ヶ月を超えないという内容は精神保健福祉法ではなく、厚労省令である精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行規則に記載されていますので、そちらをご参照ください。


医療保護入院診察時の例文:精神保健指定医(以下、指定医)の診察に同席した。(現症を記載)。入院の必要性を本人に説明したが、病識が欠如しており、入院の同意が得られなかった。やむを得ず(家族等)の同意を得て、(年月日)医療保護入院とした。指定医は、医療保護入院となる事及び入院措置を採る理由、治療上必要であれば行動制限を行う事、信書の発受および人権擁護に関する行政機関の職員や弁護士との電話、面会は制限されない事、退院や処遇改善等の請求に関することを口頭及び書面にて本人および家族に告知した。その旨を診療録に記載、署名した。(年月日)、(家族等)の同意書を添えて医療保護入院届を最寄りの保健所長を経て(都道府県知事または政令指定都市市長)に提出した。 また、速やかに精神保健福祉士を退院後生活環境相談員として選任し、早期の地域移行に向けた支援体制を整えた。

※令和7年以降の入院の場合:3ヶ月を超えない範囲で入院期間を定めた。

⑮2024年(令和6年)3月31日以前に入院が行われ同年4月1日以 後も引き続き入院している者又は同日以後に入院が行われた者の場合、

・ 病院において、医療保護入院者又はその家族等からの求めがあった場合その他必要があると認められる場合には、これらの者に対して、地域援助事業者の紹介が行われているか。

・入院期間の更新については、指定医によって入院継続の必要があると判断され、かつ、医療保護入院者退院支援委員会にて審議が行われた場合に限り、家族等の同意がされているのか等の要件を確認した上で、法定の範囲内で期間を定めて入院期間の更新が行われているか。


コメント:地域援助事業者については措置⑤の例文参照。医療保護入院者退院支援委員会については以下の例文を参照してください。


医療保護入院者退院支援委員会の例文:(年月日)、医療保護入院者退院支援委員会を開催したが、(残存する症状を記載)などを理由に指定医は患者がまだ退院できる状態にないと判断し、(家族等)の同意を得て、入院期間を(年月日)まで延長した。


18歳未満の症例

⑯患者の年齢、発達段階および児童思春期の心理的特性に配慮して関わり、治療するよう努めているか。

⑰患者の発育発達歴、養育環境、就労・就学状況等を把握し、保健福祉等の支援の必要性を検討し、必要に応じて関係機関との連携を図っているか。 


コメント:未成年の症例では、学校や児童相談所などの連携を図った症例を用いてください。単に未成年だっただけでは症例として不十分です。


任意入院に移行した症例


⑱措置入院者又は医療保護入院者が、措置入院又は医療保護入院の要件はなくなったが、入院継続の必要性がある場合、本人に対して入院医療の必要性等について十分な説明を行い、その同意を得たうえで、可能な限り早期に任意入院に移行できるよう努めているか。


コメント:医療保護から任意入院に移行した場合については、以下例文を参照してください。


任意入院移行の例文:(症状改善の経過を記載)患者は病識を獲得し、治療に対する理解も得られた。本人に任意入院の説明を行ったところ、入院継続を希望されたため、指定医と協議の上、(年月日)、医療保護入院を退院とした。同日、本人に、自らの意思による任意入院である事、退院の申し出により退院できるが必要があれば退院を制限される事、治療上必要あれば行動制限を行う事、信書の発受および行政機関の職員や弁護士との電話や面会は制限されない事、退院や処遇改善等の請求に関する事を本人に書面で告知した上で任意入院とした。(年月日)、病院管理者は最寄りの保健所長を経て医療保護入院の退院届を最寄りの保健所長を経て政令指定都市市長(または都道府県知事)に提出した。

⑲退院制限を行った場合、患者の症状及び退院制限の要件を踏まえ、退院制限の理由、期間及びその後に採った措置が記載され、その内容に妥当性が認められるか。  

※ 指定医(特定医師)による診察の結果、医療及び保護のため入院を継続する必要があると認めたときに72時間(特定医師の場合は12時間)に限り実施可能。


コメント:退院制限の理由は医療保護入院と同等の内容が必要です。理由の説明が長くなるため、退院制限の症例は指定医レポートには不向きだと考えてください。


退院後に外来治療を行った症例 


⑳退院前に退院後の患者に対する保健福祉等の支援や関係機関との連携の必要性を検討し、評価しているか。


コメント:入院とはあくまで一時的な治療であり、長い目で見れば、退院後の生活をより良いものにするのが精神科医本来の社会的役割です。退院後の支援についても忘れずに記載しましょう。参考として精神保健福祉法の第1条を以下に引用しておきます。


第1条 この法律は、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)の基本的な理念にのつとり、精神障害者の権利の擁護を図りつつ、その医療及び保護を行い、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成十七年法律第百二十三号)と相まつてその社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行い、並びにその発生の予防その他国民の精神的健康の保持及び増進に努めることによつて、精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上を図ることを目的とする。



<行動制限に関する事項> 

共通事項

①行動制限を行った場合に、患者の症状を踏まえ、行動制限の種類、開始・解除の日時及び開始・解除の判断理由が記載され、その内容に妥当性が認められるか。※ 電話・面会の制限については日時の記載は求めない。

②行動制限は、医療又は保護に欠くことができない限度において行われているか(患者の症状に応じて最も制限の少ない方法により行われているか)。


コメント:ここでの行動制限は主に隔離か拘束を指します。行動制限の3要件を確認しましょう。1つは「切迫性」で、本人(または他者)の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高い場合と解釈されます。2つ目に「非代替性」があり、他の手段がない場合しか行動制限は認められません。3つ目は「一時性」です。行動制限はあくまで一時的にしか認められず、症状が落ち着いたら即解除しなければなりません。指定医レポートでは、隔離・拘束の開始時間、解除時間の記載を分単位で求められますが、これも一時的なものであったかどうかの確認のためです。なお、指定医レポートでは、行動制限の開始・解除の時間の書き忘れに注意してください。


電話・面会の制限


③制限を行わなければ病状の悪化を招き、あるいは治療効果を妨げる等、医療又は保護の上で合理的な理由がある場合に行われているか。

④合理的な方法及び範囲における制限であるか。


コメント:電話や面会は基本的に制限してはいけません。治療上の特段の事情があれば可能ですが、倫理的に極めて危ういものであり、妥当性を説明するハードルは高いです。このため、電話・面会制限した症例をレポートに用いないことを勧めます。以下、厚労省の示す基準を引用します。


「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十七条第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準」

第二 通信・面会について

一 基本的な考え方

(一) 精神科病院入院患者の院外にある者との通信及び来院者との面会(以下「通信・面会」という。)は、患者と家族、地域社会等との接触を保ち、医療上も重要な意義を有するとともに、患者の人権の観点からも重要な意義を有するものであり、原則として自由に行われることが必要である。

(二) 通信・面会は基本的に自由であることを、文書又は口頭により、患者及びその家族等(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)第五条第二項に規定する家族等をいう。以下同じ。)その他の関係者に伝えることが必要である。

(三) 電話及び面会に関しては患者の医療又は保護に欠くことのできない限度での制限が行われる場合があるが、これは、病状の悪化を招き、あるいは治療効果を妨げる等、医療又は保護の上で合理的な理由がある場合であつて、かつ、合理的な方法及び範囲における制限に限られるものであり、個々の患者の医療又は保護の上での必要性を慎重に判断して決定すべきものである。


隔離


⑤患者の症状からみて、

・ 本人又は周囲の者に危険が及ぶ可能性が著しく高く、

・ 隔離以外の方法ではその危険を回避することが著しく困難で あると判断される場合に、

・ その危険を最小限に減らし、患者本人の医療又は保護を図ることを目的として行われているか。

⑥隔離以外によい代替方法がない場合において行われているか。

⑦隔離の対象となる患者が、次のような場合に該当すると認められるか。

ア他の患者との人間関係を著しく損なうおそれがある等、その言動が患者の病状の経過や予後に著しく悪く影響する場合 

イ自殺企図又は自傷行為が切迫している場合

ウ他の患者に対する暴力行為や著しい迷惑行為、器物破損行為が認められ、他の方法ではこれを防ぎきれない場合

エ急性期精神運動興奮等のため、不穏、多動、爆発性などが目立ち、一般の精神病室では医療又は保護を図ることが著しく困難な場合

オ身体的合併症を有する患者について、検査及び処置等のため、 隔離が必要な場合


コメント:隔離については行動制限の3要件である非代替性、切迫性、一時性などを意識して記載してください。また隔離についての厚労省告示を守っていることも分かる記載が必要となります。


隔離開始の例文:(精神症状・問題行動を記載し)本人又は周囲の者に危険が及ぶ可能性が高く、隔離以外にこの危険を回避する手段はないと判断された。そのため、患者本人の医療又は保護を図ることを目的として、指定医が本人に口頭と書面で告知し、(年月日日時)より隔離を開始した。患者の隔離を行ったこと、その理由、隔離の開始時間を診療録に記載した。その後、毎日1回以上の診察を行い、隔離の継続の要否を都度検討し、その内容を診療録に記載した。


隔離解除の例文:(症状や問題行動が改善していく経過を記載)。(隔離を開始した危険性)の切迫性が消失したと判断されたため、(年月日日時)に隔離を終了とし、その旨及び日時を診療録に記載し署名した。


以下、隔離についての厚労省の告示(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十七条第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準)から引用します。


第三 患者の隔離について

一 基本的な考え方

(一) 患者の隔離(以下「隔離」という。)は、患者の症状からみて、本人又は周囲の者に危険が及ぶ可能性が著しく高く、隔離以外の方法ではその危険を回避することが著しく困難であると判断される場合に、その危険を最小限に減らし、患者本人の医療又は保護を図ることを目的として行われるものとする。

(二) 隔離は、当該患者の症状からみて、その医療又は保護を図る上でやむを得ずなされるものであつて、制裁や懲罰あるいは見せしめのために行われるようなことは厳にあつてはならないものとする。

(三) 十二時間を超えない隔離については精神保健指定医の判断を要するものではないが、この場合にあつてもその要否の判断は医師によつて行われなければならないものとする。

(四) なお、本人の意思により閉鎖的環境の部屋に入室させることもあり得るが、この場合には隔離には当たらないものとする。この場合においては、本人の意思による入室である旨の書面を得なければならないものとする。

二 対象となる患者に関する事項

隔離の対象となる患者は、主として次のような場合に該当すると認められる患者であり、隔離以外によい代替方法がない場合において行われるものとする。

ア 他の患者との人間関係を著しく損なうおそれがある等、その言動が患者の病状の経過や予後に著しく悪く影響する場合

イ 自殺企図又は自傷行為が切迫している場合

ウ 他の患者に対する暴力行為や著しい迷惑行為、器物破損行為が認められ、他の方法ではこれを防ぎきれない場合

エ 急性精神運動興奮等のため、不穏、多動、爆発性などが目立ち、一般の精神病室では医療又は保護を図ることが著しく困難な場合

オ 身体的合併症を有する患者について、検査及び処置等のため、隔離が必要な場合

三 遵守事項

(一) 隔離を行つている閉鎖的環境の部屋に更に患者を入室させることはあつてはならないものとする。また、既に患者が入室している部屋に隔離のため他の患者を入室させることはあつてはならないものとする。

(二) 隔離を行うに当たつては、当該患者に対して隔離を行う理由を知らせるよう努めるとともに、隔離を行つた旨及びその理由並びに隔離を開始した日時及び解除した日時を診療録に記載するものとする。

(三) 隔離を行つている間においては、定期的な会話等による注意深い臨床的観察と適切な医療及び保護が確保されなければならないものとする。

(四) 隔離を行つている間においては、洗面、入浴、掃除等患者及び部屋の衛生の確保に配慮するものとする。

(五) 隔離が漫然と行われることがないように、医師は原則として少なくとも毎日一回診察を行うものとする。


身体的拘束


⑧身体的拘束以外によい代替方法がない場合において行われているか。

⑨身体的拘束の対象となる患者が、次のような場合に該当すると認められる患者であるか。

ア自殺企図又は自傷行為が著しく切迫している場合

イ多動又は不穏が顕著である場合

ウア又はイのほか精神障害のため、そのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれがある場合

⑩できる限り早期に他の方法に切り替えるよう努めているか。


コメント:身体的拘束についても隔離と考え方は同じです。切迫性、非代替性、一時性の3要件が重視されます。拘束中に肺塞栓症で亡くなる事例が後を絶たず、訴訟においても拘束が違法と断じられることは珍しくありません。法的に言えば、拘束時はより一層の注意義務が求められると考えてください。まずは拘束中は事故が起きないようモニタリングと予防策を徹底すべきです。切迫性や一時性の要件も隔離よりはるかに厳しいと考えてください。防衛的な看護師さんなどは拘束の早期解除を嫌うことがあるかもしれませんが、できるだけ早めに拘束解除すべきです。また、隔離と拘束をセットにすることは「二重拘束」と呼ばれ、指定医レポートではその必要性を厳しく追及されます。二重拘束の症例は指定医レポートに選択しないことが無難ですが、もしも指定医レポートにするなら理由を多めに説明するようにしてください。


拘束開始の例文:(切迫した精神症状や行動を記載し)、○○の危険が著しく切迫しており、隔離などの他の方法ではその危険を回避することが著しく困難であると判断した。患者の医療及び保護を図るために、指定医が本人に口頭と書面で告知して(年月日日時)より身体的拘束を開始した。患者の身体的拘束を行ったこと、その理由、及び身体的拘束の開始日時を診療録に記載した。その後、1日2回以上診察し、精神状態や四肢の循環不全、褥瘡などの兆候がないか身体的状態についても評価し、その都度、身体的拘束継続の要否を判定し、診療録に記載した。


拘束解除の例文:(症状が軽減した経過を記載し)、○○の切迫性が消失したと判断された。(年月日日時)に身体的拘束を終了とし、その旨及び日時を診療録に記載した。


以下、拘束について、厚労省の告示から引用します。


第四 身体的拘束について

一 基本的な考え方

(一) 身体的拘束は、制限の程度が強く、また、二次的な身体的障害を生ぜしめる可能性もあるため、代替方法が見出されるまでの間のやむを得ない処置として行われる行動の制限であり、できる限り早期に他の方法に切り替えるよう努めなければならないものとする。

(二) 身体的拘束は、当該患者の生命を保護すること及び重大な身体損傷を防ぐことに重点を置いた行動の制限であり、制裁や懲罰あるいは見せしめのために行われるようなことは厳にあつてはならないものとする。

(三) 身体的拘束を行う場合は、身体的拘束を行う目的のために特別に配慮して作られた衣類又は綿入り帯等を使用するものとし、手錠等の刑具類や他の目的に使用される紐、縄その他の物は使用してはならないものとする。

二 対象となる患者に関する事項

身体的拘束の対象となる患者は、主として次のような場合に該当すると認められる患者であり、身体的拘束以外によい代替方法がない場合において行われるものとする。

ア 自殺企図又は自傷行為が著しく切迫している場合

イ 多動又は不穏が顕著である場合

ウ ア又はイのほか精神障害のために、そのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれがある場合

三 遵守事項

(一) 身体的拘束に当たつては、当該患者に対して身体的拘束を行う理由を知らせるよう努めるとともに、身体的拘束を行つた旨及びその理由並びに身体的拘束を開始した日時及び解除した日時を診療録に記載するものとする。

(二) 身体的拘束を行つている間においては、原則として常時の臨床的観察を行い、適切な医療及び保護を確保しなければならないものとする。

(三) 身体的拘束が漫然と行われることがないように、医師は頻回に診察を行うものとする。


任意入院者の開放処遇の制限


⑪任意入院者の症状からみて、その開放処遇を制限しなければその医療又は保護を図ることが著しく困難であると医師が判断する場合にのみ行われているか。

⑫開放処遇の制限の対象となる任意入院者が、次のような場合に該当すると認められる患者であるか。

ア他の患者との人間関係を著しく損なうおそれがある等、その言動が患者の病状の経過や予後に悪く影響する場合

イ自殺企図又は自傷行為のおそれがある場合

ウ当該任意入院の病状からみて、開放処遇を継続することが困難な場合


コメント:任意入院の患者が急に病状悪化し、隔離が必要になったり、医療保護入院に切り替えなければならないけど休日夜間で指定医がいない。こんな場合に非指定医の判断でも任意入院の開放処遇を制限することができます。ただし、その後72時間以内に指定医診察を行う必要がありますし、医療保護入院に切り替えることが前提です(隔離の場合は12時間以内に指定医診察が必要)。十分な理由がないままに任意入院患者の開放処遇を制限したり、その後の対応に不備があったりすると、後に法的問題になる可能性があります。正直、説明の難易度が高いので、指定医レポートに任意入院者の開放処遇制限症例を用いることはおすすめしません。


以下、任意入院者の開放処遇制限について厚労省の告示から引用します。


第五 任意入院者の開放処遇の制限について

一 基本的な考え方

(一) 任意入院者は、原則として、開放的な環境での処遇(本人の求めに応じ、夜間を除いて病院の出入りが自由に可能な処遇をいう。以下「開放処遇」という。)を受けるものとする。

(二) 任意入院者は開放処遇を受けることを、文書により、当該任意入院者に伝えるものとする。

(三) 任意入院者の開放処遇の制限は、当該任意入院者の症状からみて、その開放処遇を制限しなければその医療又は保護を図ることが著しく困難であると医師が判断する場合にのみ行われるものであって、制裁や懲罰あるいは見せしめのために行われるようなことは厳にあってはならないものとする。

(四) 任意入院者の開放処遇の制限は、医師の判断によって始められるが、その後おおむね七十二時間以内に、精神保健指定医は、当該任意入院者の診察を行うものとする。また、精神保健指定医は、必要に応じて、積極的に診察を行うよう努めるものとする。

(五) なお、任意入院者本人の意思により開放処遇が制限される環境に入院させることもあり得るが、この場合には開放処遇の制限に当たらないものとする。この場合においては、本人の意思による開放処遇の制限である旨の書面を得なければならないものとする。

二 対象となる任意入院者に関する事項

開放処遇の制限の対象となる任意入院者は、主として次のような場合に該当すると認められる任意入院者とする。

ア 他の患者との人間関係を著しく損なうおそれがある等、その言動が患者の病状の経過や予後に悪く影響する場合

イ 自殺企図又は自傷行為のおそれがある場合

ウ ア又はイのほか、当該任意入院者の病状からみて、開放処遇を継続することが困難な場合

三 遵守事項

(一) 任意入院者の開放処遇の制限を行うに当たっては、当該任意入院者に対して開放処遇の制限を行う理由を文書で知らせるよう努めるとともに、開放処遇の制限を行った旨及びその理由並びに開放処遇の制限を始めた日時を診療録に記載するものとする。

(二) 任意入院者の開放処遇の制限が漫然と行われることがないように、任意入院者の処遇状況及び処遇方針について、病院内における周知に努めるものとする。


今後について


精神保健福祉法は人権侵害という批判を受けて改正を繰り返してきましたが、今もまだ問題が多々指摘されており、今後も改正していく可能性があります。未来予測は困難ですが、おそらくは、医療保護入院の期間がさらに短縮されたり、入院患者さんが弁護士に相談しやすくなったり、精神医療審査会に入る法律家が増えたりするなどの改正が予想されます。参考までに日本弁護士連合会の提言のリンクを載せておきます。





指定医レポートについては以上です。最後に、若手精神科医のキャリア形成についてのアドバイスを別のページにまとめましたので、良ければご覧下さい。

最近の記事
bottom of page